先に答え:受けられるのは「補助的な業務」で、体制が問われる
窓口や事務の委託を受けるときに、最初に押さえたいことは2つです。
- 任せられる範囲が決まっている:住民に対する判断や、台帳そのものの管理は職員の仕事です。民間が受けるのは、受付や作成の補助、引渡しなどです
- 自社で従業員を指揮する体制が要る:委託なのに、役所の職員が従業員へ直接指示を出す形だと、労働者派遣に当たることがあります
この2つを理解しているかどうかは、仕様書の読み方にも、提案や見積の中身にも影響します。
民間に任せられる窓口業務の範囲
総務省の公共サービス改革推進室は、市町村の出張所・連絡所などの窓口業務について、民間事業者に任せられる範囲を文書で示しています。最新の改定は令和7年3月25日です。
文書によれば、窓口業務は公証行為など市町村長の名前で行う業務で、職員が自ら責任を持って行うべき業務を含みます。そのため、民間に任せられるのは「事実上の行為又は補助的業務」に当たるものです。
| 分け方 | 例 |
|---|---|
| 民間が取り扱える業務の例 | 住民票の写しの交付請求の受付(請求者や記載事項の確認)、写しの作成(端末の入出力を含む)、引渡し |
| 同じく例 | 国民健康保険や介護保険の届出書の受付、児童手当の請求書の受付、埋葬・火葬許可の受付と許可証の作成・引渡し |
| 職員が自ら行う業務 | 法律にもとづく市町村長の判断行為、原簿(住民基本台帳、戸籍簿など)の管理 |
| 民間の取扱いが認められないものの例 | 住民基本台帳ネットワークシステムの取扱い |
| 民間の委託の範囲に含まれないものの例 | 戸籍の届出などで、市町村職員の裁量的判断を伴う「問を発してする本人確認」 |
業務ごとの細かい線引きは、この文書の別紙に、担当省庁の見解として並んでいます。参加したい案件の業務が載っていれば、目を通しておきましょう。妊娠届の受付のように、「すべてのケースを保健師につなぐ」といった条件が付くものもあります。
職員が常駐しない場合の決まりも確かめる
令和7年の改定では、規制改革実施計画を踏まえて、職員を常駐させずに委託できる条件を明確にする趣旨が示されています。公共サービス改革法第34条にもとづく特例では、民間が扱える範囲は本人請求などの「受付」と証明書の「引渡し」に限られ、同法の入札で委託した場合は、みなし公務員の規定なども適用されます。どの形の委託なのかは、仕様書で確かめてください。
請負と派遣の違い:名前ではなく実態で決まる
事務の委託で最も注意したいのが、請負(委託)と労働者派遣の違いです。
厚生労働省の疑義応答集は、派遣と請負のどちらに当たるかは、契約の形式ではなく、区分の基準にもとづいて実態に即して判断されるとしています。総務省の文書も、市町村職員が委託先の職員に指揮命令して業務の処理を行わせたと認められる場合は、契約の形にかかわらず労働者派遣に当たり、労働者派遣法に従わなければならないと注意しています。
区分の基準で求められること
昭和61年労働省告示第37号は、請負として認められるための条件を定めています。大きく分けると次の2つです。
| 条件 | 中身 |
|---|---|
| 自社の労働者を自ら直接使うこと | 業務の遂行方法の指示と評価、始業・終業・休憩・休日などの管理、時間外や休日の労働の指示、服務の規律、配置の決定と変更を、自ら行う |
| 業務を自社の業務として独立して処理すること | 資金を自らの責任で調達して支払う、法律上の事業主の責任を負う、単に肉体的な労働力を提供するのではなく、自ら用意した設備や器材、または自らの企画や専門的な技術・経験で処理する |
これらの条件を満たしていても、法律の規定を免れるために故意に偽装されたものは、労働者派遣事業を行う事業主であることを免れません。
現場で起きやすい場面
条件を現場に当てはめると、次の点が分かれ目になりやすいところです(判断は実態によるので、あくまで考え方の例です)。
- 役所の職員が、委託先の個々の従業員に「これをやって」と仕事を割り振っていないか
- 従業員の勤務時間や休憩の管理を、自社の責任者が行っているか
- 担当者の交代や配置を、自社で決めているか
- 業務の手順書があり、自社の責任者がそれにもとづいて指示しているか
役所からの要望は、自社の現場責任者を通して受け、責任者から従業員へ指示する形が基本になります。現場責任者を置く費用も、価格の中に入れておく必要があります。事例に当てはまらないときは、各都道府県の労働局が実態に即して個別に判断するとされているので、不安な点は労働局に相談してください。
派遣として受ける場合
労働者派遣事業を行うには、厚生労働大臣の許可が必要です。許可の基準を満たす必要があり、有効期間ごとに更新もあります。発注が「労働者派遣」の形で出ている案件には、この許可がなければ参加できないと考えておきましょう。委託か派遣かは、公告と仕様書の最初の部分に書かれています。
契約書が「委託」でも、安心はできません
実態が派遣と判断されれば、問題になるのは受ける側も同じです。仕様書を読んで、職員の指示のもとで働く前提になっているように見えるときは、質問の期間に確かめてください。
個人情報の体制は、準備の中心になる
窓口業務では、住民のさまざまな個人情報を扱います。総務省の文書は、発注する市町村に対して、受託者とその従業員の個人情報保護法令の遵守の徹底、情報の取扱い方法を定めた実施要領の策定、業務の内容に限った端末のアクセス制限などへの配慮を求めています。
受ける側としては、次のことを説明できるように準備しておきます。
- 従業員の教育と、守秘の誓約の取り方
- 情報を持ち出さないための決まりと、確認の方法
- 事故が起きたときの報告の流れ
- 外部の認証などを持っている場合は、その内容(参加の条件になっているかは公告で確かめる)
民間の事務の仕事と比べて、ここが大きな違いです。データ入力の委託でも、個人情報を扱うなら同じ考え方が要ります。
価格の考え方:人件費が中心の仕事
窓口や事務の委託は、費用の多くが人件費です。積み上げるときは、時給だけでなく次のものを入れます。
- 社会保険料の事業主負担
- 現場責任者の人件費
- 欠員が出たときの代わりの人の確保
- 研修の費用と時間
- 交通費や事務の経費
国の令和8年度の基本方針は、最低賃金やそれに近い人件費単価の人が働く可能性のある役務の契約について、契約期間中の最低賃金の改定見込額を考えた予定価格を作ること、人件費単価が改定後の最低賃金を下回ったときに単価を見直す条項を前もって契約に入れることなどを定めています。入札する側にも、改定見込額を考えて価格を出すよう周知するとしています。
また、物件や役務の契約の途中で、労務費などの実勢価格に変化が生じたときは、契約金額を変更する必要があるかを検討し、受注者から申出があれば迅速に協議するとしています。人件費の比率が高い役務の契約では、毎月払いなどの部分払を行うよう配慮するともしています。
ただし、基本方針は国などの機関が対象で、自治体には準じた取組が要請されている形です。実際の条件は、仕様書と契約書の案で確かめます。
始める手順
- 自社で受けられる範囲を決める:データ入力、書類の発送、電話の受付、窓口の受付など。規模の小さい事務から考えます
- 去年の募集を読む:同じ自治体の仕様書を読むと、人数、時間帯、必要な経験が見えてきます。読み方は入札の公告・仕様書の読み方にまとめています
- 資格をとる:国なら全省庁統一資格、自治体ならその自治体の入札参加資格です
- 責任者と手順書を用意する:指示の流れと個人情報の扱いを文書にします
- 決まり方を確かめる:価格だけか、提案も見るのか。落札の決まり方で確認します
事務の委託は、システムの運用やデータの処理とあわせて募集に出ることもあります。入札ウォッチのIT・事務の入札情報で、地域の公告をのぞいてみてください。システムの仕事に近い会社はIT・Web制作の会社の始め方も参考になります。
まとめ
- 市町村の窓口で民間に任せられるのは、受付、作成の補助、引渡しなどの事実上の行為や補助的業務。判断と原簿の管理は職員が行う
- 請負か派遣かは実態で判断される。職員が委託先の従業員に指揮命令すると労働者派遣に当たる
- 自社の責任者が指示と労働時間の管理をする体制を作り、その費用も価格に入れる
- 個人情報の体制と、最低賃金の改定を含めた人件費の積み上げが準備の中心になる
制度の細かい扱いは、案件によって変わります。迷ったら発注機関や労働局で確かめてください。入札ウォッチの無料登録で、業種と地域に合う新着の公告を週1回メールで受け取れます。