先に答え:2つの制度は「下回ったあと」が違う
入札は原則として、予定価格の範囲内でいちばん安い会社が落札します。この原則は落札の決まり方で紹介しました。ただ、安すぎる価格では仕事の品質が保てなかったり、働く人にしわ寄せがいったりするおそれがあります。そこで置かれているのが、次の2つの仕組みです。
| 比べるところ | 最低制限価格 | 低入札価格調査 |
|---|---|---|
| 下回ったとき | 調べずに、落札者にしない | 履行できるかを調べてから判断する |
| 下回っても落札できるか | できない | 調べた結果、問題なければできる |
| 使えるところ | 自治体(国の法令には同じ制度がない) | 国と自治体 |
| 自治体の根拠 | 地方自治法施行令第167条の10第2項 | 同条第1項 |
| 国の根拠 | ― | 会計法第29条の6、予算決算及び会計令第84条〜第86条 |
つまり、最低制限価格がある入札では、1円でも下回れば、どれだけ準備しても落札者になれません。低入札価格調査では、下回っても道は残りますが、説明の手間がかかり、説明できなければ落札者になれません。
最低制限価格:下回ったら自動的に落ちる線
自治体は、工事または製造その他についての請負の契約で、履行を確保するために特に必要があると認めるときは、あらかじめ最低制限価格を設けることができます(地方自治法施行令第167条の10第2項)。落札できるのは、予定価格の範囲内で、最低制限価格以上の価格のうち、いちばん安い入札です。
ここで気をつけたいのは、「請負」には工事以外も入りうることです。実際に、清掃や警備の委託に最低制限価格を設けている自治体があります。
| 自治体など | 最低制限価格の対象と決め方(公表資料から) |
|---|---|
| 名古屋市 | 建築物清掃、警備(機械警備を除く)、清掃の業務委託も対象。予定価格の75%に満たないときは75%、92%を超えるときは92%とする |
| 堺市 | 建物清掃と人的警備の一般競争入札が対象。算定基準を「予定価格の10分の7を下回らない範囲」に引き上げ(令和7年12月16日以降の公告から) |
| 京都市上下水道局 | 建物の保守・管理・清掃や警備(機械警備を除く)などの委託は、特別な事情がある場合を除き、税抜きの予定価格の3分の2に相当する額に100分の110を掛けた額 |
| 滋賀県企業庁 | 業務委託は、国土交通省の算定式で出した額に、±0.5%の範囲で無作為の係数を掛けて設定する |
同じ清掃の仕事でも、線の高さと決め方はこれだけ違います。ある自治体での感覚を、別の自治体にそのまま持ち込むことはできません。上の表は公表資料の例で、変わることがあるので、参加するときは発注機関の最新の要領で確かめてください。
名古屋市の例:どう計算するのか
名古屋市の建築物清掃と警備(機械警備を除く)では、「国の基準により算定した額」の内訳が公表されています。予定価格を出すもとになった額について、直接人件費と直接物品費はそのまま、業務管理費と一般管理費等はそれぞれ30%を足し上げます。この額と、その入札の平均入札額のうち低いほうを最低制限価格にします。
見てわかるのは、人件費を削って安くする入札を防ぐ形になっていることです。直接人件費がそのまま線に入っているので、人件費を大きく削った価格は線の下に落ちやすくなります。
低入札価格調査:下回ったら説明を求められる線
国の場合
国では、予定価格が1,000万円(各省各庁の長が財務大臣と協議して、それを超える金額を定めたときはその金額)を超える工事または製造その他についての請負契約が対象です(予算決算及び会計令第84条)。各省各庁の長が基準を作り(第85条)、いちばん安い入札がその基準に当てはまると、契約担当官等が履行できるかを調べます(第86条)。おそれがあると認めたときは、契約審査委員に意見を求めます。
自治体の場合
自治体でも、工事または製造その他についての請負の契約で、いちばん安い価格では履行がされないおそれがあると認めるときは、その会社を落札者とせず、次に安い会社を落札者にできます(地方自治法施行令第167条の10第1項)。名古屋市では、政府調達協定の対象案件や総合評価落札方式の入札を、最低制限価格ではなく低入札価格調査の対象にしています。同じ市でも、入札の種類で制度が分かれるということです。
国の方針でも、調べ方が細かくなっている
令和8年度の「中小企業者に関する国等の契約の基本方針」は、役務や工事の発注で低入札価格調査制度を活用するとしたうえで、調査の中身にも触れています。
- 入札価格の内訳書の人件費、原材料費、エネルギーコストなどが、実勢価格(都道府県別の賃金水準、最低賃金額など)に沿った単価かを確認する
- 業務に必要な工数がきちんと計上されているかを確認する
- 合理的な理由なく、履行に必要な人件費が見込まれていないと認められた場合は、落札者としないよう取り扱う
- 調査基準に当たったときに出す積算資料の詳細や、説明に応じないと落札者にしない場合があることを、公告や説明会の資料で前もって知らせる
人件費を根拠なく削った入札は、通りにくくなる方向です。自社の価格を人数と時間と単価で説明できるかが問われます。
公告と要領で確かめる4つのこと
入札に出る前に、公告・入札説明書・発注機関の要領で次を確かめます。読み方の全体は入札の公告・仕様書の読み方にまとめています。
- どちらの制度か:「最低制限価格を設定する」「低入札価格調査の対象とする」などの記載があるか。どちらもない案件もあります
- 線の決め方:計算式や割合が公表されているか。平均入札額を使う方式では、他社の入札で線が動くこともあります
- 内訳書の提出:入札と一緒に、または基準に当たったときに、内訳書や積算資料を出すか
- 過去の結果:同じ仕事の前回の落札価格と予定価格。調べ方は入札結果と落札価格の調べ方で紹介しています
線の金額は、前もって教えてもらえるとは限らない
滋賀県企業庁が「秘匿性を確保するため」に無作為の係数を掛けているように、線の金額がわからないまま価格を決める入札もあります。過去の結果から割合の見当をつけるのは役に立ちますが、当たるとは限りません。線の予想だけで価格を決めず、次の積み上げを土台にしてください。
赤字にならない価格の出し方
順番は「線のすぐ上を狙う」ではなく、自社の原価を先に出すことです。
- 仕様書から、必要な人数・時間・回数を書き出す
- 人件費を積み上げる。最低賃金は地域と時期で変わるので、履行期間中の見込みも含めて確かめる
- 材料費、消耗品、交通費、機材費を足す
- 管理にかかる費用(管理者の時間、保険、書類づくり)と、利益を足す
- その額を、過去の落札価格と見比べる
積み上げた額が過去の落札価格より大きく上なら、無理に下げるより、見送るのもひとつの判断です。逆に過去の落札価格が自社の原価を下回っていて、取っても赤字になるなら、その仕事は取らないほうが会社のためになります。うまくいかなかった入札の見直し方は入札で落ちる理由は5つにまとめました。
まとめ
- 最低制限価格は下回ったら調査なしで落札できない線、低入札価格調査は下回ったら履行できるかを調べる線
- 工事だけでなく、清掃や警備の委託に最低制限価格を使う自治体もある。線の決め方は発注機関ごとに違うので、要領と公告で確かめる
- 国の基本方針も、内訳書の人件費や工数の確認を求めている。線の予想より先に、人数と時間で原価を積み上げる
価格を考える時間を取るには、公告を早く見つけることも大切です。入札ウォッチの無料登録で、業種と地域に合う新着を週1回メールで受け取れます。